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最高裁判所第一小法廷 昭和22年(れ)92号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人青山新太郎上告趣意第一點は、「原判決ハ採證ヲ誤リ且判決ニ理由ヲ附セス又ハ理由不備ノ違法アルモノトス、即チ原判決ノ採證及理由ニ於テ被告ノ原審ニ於ケル供述即チ自白ヲ第一ノ證據トス然レ共被告ハ昭和二十一年十二月二十七日ヨリ昭和二十二年六月二十七日原判決ニ至ル迄滿六ヶ月ノ長期ニ亘リ勾留セラレ心身共ニ衰弱シ居リ斯ル時期ニ於ル自白ヲ第一ノ證據ト爲シタルハ失當ナリ且原判決摘示第一ノ(一)ノ事実ニ付「強取ノ物品カ判示ノ如クナリトノ點ヲ除キ判示同趣旨ノ各供述」トアリテ強取ノ物品ガ原判決摘示ノ物品ナリトノ點ニ付テ自白ナキコトハ原判決自ラ認ムル處ナリ、而シテ其ノ他ノ證據ニ付被害届ヲ擧クルト雖モ當該被害物件ト被告ノ強取トノ連絡サレタル證據ヲ示サス被害者ガ當該物品ヲ被告ガ強取シタリトノ證據ヲ缺ク即チ一方ニ強奪行爲アリ一方ニ被害アリタリトノ點ヲ指摘シタルニ止マリ當該被害物ヲ被告が強取シタリトノ證據ナク理由ナキハ採證ノ方法ヲ誤リ理由不備ノ違法ナリトス、更ニ原判決ハ其摘示第三ノ事実ニ付「被告人小越利雄ハ單獨ニテ同年五月二十二日同年七月五日及同月二十五日ノ三回ニ亘リ千葉縣君津郡昭和町奈良輪八番地農業長谷川路三外二個所ニ於テ同人外二名所有ノ衣類約十三點自転車二臺ヲ窃取シ云々」トアリ然レ共之ニ依リテハ其三回ノ内何時何者ノ家ヨリ何物ヲ窃取シタルヤ判明セス、凡ソ有罪ノ判決ヲ爲スニ當リ斯ル認定及理由ハ結局判決ニ理由ヲ附ササルカ尠クトモ理由不備ノ違法ヲ免レサルモノトス。」というにある。

しかし、記録によって取調の状況その他を精査したが、被告人に對する勾留は不當に長いものとは認められない。從って、原審において被告人の自白を證據としたことは、所論のように採證を誤ったものということはできない。又原判決は、被害物件の品目、數量等詳細の點が、被告人の供述だけでは不充分と認めて被害顛末書を證據として採用した趣旨とみられる。なお、公判廷において被告人に被害顛末書を讀聞けているのに對して、被告人は相違なき旨を供述している。被告人が一定の場所と日時において強取をなし、他方においてその一定の場所と日時における強取被害の物件が、被害顛末書をもって明かにされた以上、當該被害物件を被告人が強取したと認定しても、所論のように採證の方法を誤った違法はない。又連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには、各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要しない。數多の行爲に共通した犯罪の手段方法その他の事実を具體的に判示するの外、その連續した行爲の始期終期回數等を明かにし、且つ財産上の犯罪で被害者又は賍額に異同があるときは、被害者中或る者の氏名を表示するの外、他は員數を掲げ賍額の合算額を表示する等、これによってその行爲の内容が同一罪質を有する複數のものたることを知り得べき程度に具體的なるを以て足るのである。從って、原判決には所論のような理由不備の違法はない。

同第二點は、「原判決ハ虚無ノ事実ニ付有罪ノ法條ヲ適用シタル違法アルモノトス、原判決摘示第二ノ事実ニ付起訴状ヲ始メ其他ノ記録ニ徴スルモ犯行ハ昭和二十一年八月二十二日午後十時頃トアリ然ルニ原判決ハ昭和二十一年八月二十三日午後十時頃ト記載アリテ滿一日ノ相違存ス然レ共原判決摘示ノ日時ニ被告ガ斯クノ如キ犯行ヲ爲シタルコトハ何等ノ證據ナシ然ルニ之ニ有罪ノ法條ヲ適用シタルハ結局虚無ノ事実ニ付有罪ノ法條ヲ適用シタル違法ニ歸スルモノトス、以上ノ如キ次第ナルヲ以テ原判決ヲ取消シ更ニ相當ノ御裁判ヲ求ムル次第ナリ。」というにある。

記録を調べてみると、原判決において犯罪時を昭和二十一年八月二十三日午後十時頃と記載したのは、昭和二十一年八月二十二日午後十時頃の誤記であると認められる。犯罪の日時は、犯罪の構成要件ではないから、逐一證據をあげてこれを認めた理由を説示する必要はなく、ただ犯行を具體的事実としてその同一性を認め得られる程度に判示すればよい。偶々、犯罪の日時に關する證據の説示中に瑕疵があっても、上告の理由とすることはできない。從って、原判決には、虚無の事実につき有罪の法條を適用した違法はない。

被告人上告趣意は、「自分は此の度の事件に對して一審二審も警察で述べた通り間違有りませんと申し立てましたが最初自分は此の事件を犯す迄のいきさつに付て現在の事実と全然違う事を述べましたので相當に大野と云う係り刑事に撲られました事実は身體に聞く家の者とも面會をさせない計りか何十日何ヶ月でも呼出しも何にもやらない夫れから何んの調べもせずに共犯の鈴木を一日二三回位呼出しては煙草差入れものを食べさしたが自分は呼出しは一度も有りませんでした不意に呼出しが有ったので刑事室に行くと姉が來て居りまして自分に面會して刑事さんが日に一度や二度必ず家に來てお前の事を色々と尋ねる子供が学校に行き泣て來る家としても刑事さんに店先で何かと聞かれると商賣上非常に困る手數を掛けずに云って家に來ない樣にしなさい妻の時子も事情を知らないのだからお互に身の爲だと云われたのは刑事の一つの手段なのです其の捕まった當時は自分は米の買出しで秋田からよく戻るので家では夫れに引張られたと思ったらしいので成る可く其の侭にと思ひ此方から刑事さんを呼んで家には事件の真相は喋べらないで下さい其のかわり刑事さんの云ふ通りと調べが進み早く調書が出來送られて刑も決ってから詰らぬことを刑事が家内を呼出して自分に前科が五つ有る事から此ん度は買出しの事件ではなく田浦の事件を喋ったのです夫れに近所の金を使った家まで行き泥棒であること迄話したとは警察側にまる切りだまされたのです此の事実も家内が面會に來て非常に母親が怒って居る其の翌日又姉上からお手紙が來ました夫れには家内中がお前の爲にいい恥を近所でかいている何の意味で此の樣な事をゆうたのか分らないです自分は二審で下がる積りで居りましたが警察の顔をよくしてしまへば此方は何でもよいとの向勝手自分は此の爲に直ぐ召喚状を早野裁判長に出し此の間呼出しが有り此の話を裁判長殿にお話しをしたら最高裁判所に書類を回してしまったから上告趣意書に書いて出しなさいと教へられて歸って來ました最高裁判所において上告した理由を汲みとり御審理をお願ひ致します、湖南田浦の事件は自分が全然知らなかった事調書に自分が「アイクチ」持って入ったとしてある事実は向うの人に尋ねてもらへば分りますが品物を一つも手をつけない事と二階に上る時初めて村上から「アイクチ」を取っておばさんが二階に金があると聞き上って行き五百持って來た其の時家人が品物を助けて呉れと泣かれて自分は皆と一部の品物持ってゆく樣にした事実此の時自分が皆に兄貴顔して居る樣に書いてある事や品物を一人で取って金を自分のふところに入れたことになって居りますが此時品物分配にあづからなかったのは平井一人です此の事は大野刑事部長で四人一緒に出て相談をして書いたので今になれば皆無駄でした二、調書に今一つの千葉縣「ナラハ」の事件でも犯人は彼方で上っているのに自分の事にしてしまったのです此の二つの審理をお聞き下さって再審理をお願ひ致します警察側の態度の不思議なやり方は自分は二審で下がる積りで居りましたが此の新しい日本建設の指導者となる者のやり方と思へませんが何んとしても此の真相をお調べ下さい。」というにある。

しかし、記録をよく調べてみても、所論のように暴行又は不當な待遇のために自白をしたとは認められない。論旨は結局、原審の専權に屬する事実認定を非難するものであって、上告の適法な理由とはならない。

右の理由により刑事訴訟法第四百四十六條に則り主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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